2023年に厚生労働省から発表された人口動態統計によると、日本人の主な死因別に見た死亡率では、悪性新生物と心疾患による死亡が増加しており、特に悪性新生物による死亡がダントツで、2023年では、人口10万人に対して、300名を超えている。
昭和40年頃では、100名程度であったので、約50年で、3倍に増えている。因みに心疾患は、令和5年では190名程度である。さらに部位別のがん死亡率の推移を見ると、肺がんが増加の一途をたどっており、2014年では、人口10万人に対して、90名近くになっている。肺がんの原因として喫煙が挙げられるが、日本人の男女とも喫煙率は緩やかに減少している。
このようながん死亡の推移に関する医学的見解に対しては、本財団のがんの専門家の先生方に伺う事として、ここでは医療機器による肺がんの治療に関して、最近の話題を提供したい。
筆者は、一般社団法人日本医工ものづくりコモンズで、医工連携による医療機器開発支援の活動に取り組んでいる。その活動の一つが、国立国際医療センター(NCGM)とコモンズとが共催して行っている海外医療機器の最新動向勉強会(MINCの会)である。この勉強会は、2017年に始まり、年に4回の頻度で勉強会を開催している。
取り上げる医療機器開発の記事は、オルバヘルスケアホールディングス株式会社が発刊しているMedical Globeという医療機器の情報誌から毎回2~3件選んで、NCGMの診療科の医師から解説とコメントを頂き、それに対して討論を行っている。医師の方からのコメントが極めて鋭く、本質を突いているので、医療機器開発の立場から極めて有意義であるため、医療機器関係者の間で定評のある勉強会となっている。
2025年3月の勉強会で、転移性の非小細胞肺がん治療として開発された交流電場腫瘍治療システム(スイスのノボキュア社が開発)が米国で市販前承認を取得したという記事が取り上げられた。経皮的に低強度の交流電場を負荷する事で、腫瘍細胞の細胞分裂を選択的に阻害し、最終的に細胞死を引き起こす。正常細胞には大きな影響を与えないため、副作用は殆ど生じないという夢のような治療法である。ただこの治療法は、一般的な抗がん剤との併用という事であるが、この記事に対して呼吸器外科の先生は、画期的な治療だと絶賛されていた。
がん治療としては、外科手術、抗ガン剤、放射線照射が主流であるが、この記事のように低強度の交流電場を負荷するという放射線ではない物理的な刺激による治療法が出現する時代になり、何とか肺がんの死亡率増加を食い止める一因になって欲しいと願うばかりである。