近年、ディープラーニング技術を基盤としたAIの性能が飛躍的に向上しています。2022年にはOpenAI社から生成AIであるChatGPTが発表されましたが、瞬く間に世界中に広がってその利便性が認識されるとともに、医学部学生から提出されるレポートにはその利用がうかがえるものも多くあります。
生成AIの基盤技術の詳細は他所に譲りますが、かつて考えられなかった規模のデータを学習し、自然言語処理技術による過去に学習した膨大な文脈の確率に基づいて単語や語の一部を「トークン」という単位で処理しながら文章を作成するため、学術領域では重要な文字数制限などには意外と弱いことも知られています。
現在も大手企業からベンチャーまで、多くの企業が更なる精度の向上や画像生成技術の開発にしのぎを削っており、今後医療を含んだ更に多くの業界での導入が期待されています。一方で、超高齢化社会を迎えた日本において、医療分野におけるデジタル・トランスフォーメーション(医療DX)の推進は、本邦における今後の医療における社会保障制度の持続可能性と国民の健康寿命延伸の鍵を握る重要課題となっています。
医療DXとは、疾病予防から診断・治療、介護に至る各段階で発生する膨大な情報を、標準化・共通化された基盤に集約し、保健・医療・介護の質を高めながら、業務効率化を図る社会変革です。この医療DXの中で三本柱の一つとして推進される「電子カルテ情報の標準化」では、各種ビッグデータの活用も期待されています。
そのような中、近年免疫チェックポイント阻害剤併用化学療法の長期成績が幾つか報告され、本年のASCO-GIにおいては高度進行胃癌に対する免疫チェックポイント阻害剤併用療法の5年フォローアップ結果が報告されました。最短のフォローアップ期間が5年というこれまでに類を見ない報告ですが、6人に1人が5年生存を達成しており、今後のがん診療に大きなインパクトを与える結果でした。
今後、集学的治療の重要性がさらに増すものと思われますが、医療DXによって標準化される膨大な医療データと進化するゲノム解析技術を背景に、生成AIを用いた新たな治療戦略が展開されることも期待されます。近い将来、レジメン設計や個別化治療の推進が展開されることも期待され、内科医、外科医、放射線科医に加えて「生成AI」という新たなパートナーを加えた未来の多職種連携によるがん集学的治療が、未来のがん医療を切り拓く力になると信じています。