財団法人 がん集学的治療研究財団

理事長挨拶

標準的治療から、より安全で効率的な個別化治療への展開を求めて!

−プロジェクトX、第2弾への道−

財団法人がん集学的治療研究財団   理事長 佐治重豊         

第31回一般研究助成式典での理事長挨拶
写真は第31回一般研究助成式典での理事長挨拶

最初に、この度の東北地方の地震・大津波と福島原発事故による東日本大震災により被災されました皆様に対し、 心からお見舞いを申し上げます。また、未曽有の災害に対し、被災各地へ医療支援等で尽力されておられます多くの 先生や医療従事者の皆様に対し、心から敬意を表させて頂きます。ところで、この震災後、日本人の価値観、人生観、 死生観が大きく変わってしまい、先行き不透明感が心の底に重くのしかかっています。しかし、日本人の美徳(忍耐力と勤勉さ)と 礼儀正しさ(武士道精神)を世界にアピールでき、民族間での絆精神と助け合い精神が芽生えたことは、 未来への素晴らしい発展が期待でき、意識改革に繋がったと思っています。勿論、震災直後の対応や情報公開のあり方、 医療支援での「世界市民Global Citizen」としての認識不足と制度不備、自立意欲と自己責任感の低さ等を若干危惧しています。


さて、当財団では、平成15年度に「患者に優しいがん薬物療法」、プロジェクトXを起案しました(財団のご案内、プロジェクトXを参照下さい)。 目標は、治療成績に遜色がなければC-max重視型の短期大量投与より、cell cycle依存性の低用量継続投与により有害事象を可及的軽減した 「安全で効率的な癌薬物療法の展開」にあります。当初5年計画でしたが、この間に@投与量関連でJFMC27-9902とJFMC43-1003を、 A有害事象を基準としたテーラーメイド医療関連でJFMC31-0301を、B適応基準としてのバイオマーカー関連でJFMC34-0601を、 C医療経済面でのhealth related (HR)-QOL関連でJFMC37-0801を、D投与期間の探索関連でJFMC33-0501とJFMC37-0801を、 E免疫化学療法の再評価関連でJFMC36-0701とJFMC38-0901を、及び F Complementary Alternative Medicine (CAM、漢方)関連で、 大建中湯のEBM確立を目指しJFMC39,40,42などを企画・施行しました。既に、8年が経過した現在、一部は未だ症例集積中或いは解析中ですが、 最終結果を漸次公開報告予定です。また、各臨床試験には可能なかぎり付随研究を併設し、学問的側面からもEBMの裏付けを行ってきました。 今回、その延長として、JFMC41-1001-C2試験で初めて網羅的遺伝子解析を行います。即ち、標準的治療から個別化治療を目指した付随研究の併設で、 これを「プロジェクトX第2弾」として新規に提唱予定であります。なお、JFMC41-1001-C2研究は、StageU/StageV結腸癌治癒切除例に対する 術後補助化学療法としてのmFOLFOX6療法の認容性に関する検討に、オキサリプラチンの個別化治療の確立を目指して、京都大学ゲノム医学センターの 協力のもと登録患者の遺伝子多型をGenome wide association study (GWAS)の手法を用いて網羅的に探索する付随研究を併設しています。 これは、抗がん剤の特徴的な有害事象(アレルギー反応/アナフィラキシー、末梢神経症状など)と相関する遺伝子多型(候補遺伝子としてGSTP1、 ERCC1などを想定)を検索し、対処するためであります。すなわち、臨床試験で得られたEBMに基づく標準的治療に、網羅的遺伝子解析を加えることにより、 安全で安心できる症例選択基準や有害事象対策の確立を目指すことにあります。その結果、従来の統計解析による確率論的EBMから、 より学際的な個別化治療への展開が可能となるので、無駄な治療の排除や有害事象の防止などが可能になると期待しています。 既に、CPT-11とUGT1A1, CYP3A5、CYP2D6など、CDDPとXRCC2, XRCC3, RAD51など、遺伝子多型との関連の解析が進んでおり、近い将来、 治療開始段階で有害事象の程度や治療効果等の予測が可能になると推察されます。


ところで、がん患者が求める究極の治療は、痛みのない・有害事象の少ない治療の提供、すなわち効率的な低侵襲医療の展開にあります。 既に、外科領域では拡大手術から縮小手術、さらに鏡視下補助での低侵襲化が進んでいます。内科領域でも内視鏡治療や Interventional Radiologyを応用した局所療法、 放射線治療でのIMRT法導入によるピンポイント照射(Tomotherapy)などが普及しています。 何れも、治療効果に遜色がなければ、QOLを低下させない治療の開発にあります。一方、癌薬物療法でも、癌細胞を標的とした分子標的治療剤の登場で、 有害事象が低下し治療成績が向上しています。問題は、これらの新技術や新規抗がん剤の登場により、医療費が天井知らずの勢いで増加している点です。 最近、臨床試験での治療中止理由の中にも、「経済的理由」が散見されます。日本は、国民皆保険制度のお陰で医療費が補償され、 全患者が等しくこれら先端医療を享受できる環境にありますが、永遠に継続できるかは保証の限りではなく、「より安全で、安価で、効率的な治療法」の 展開が望まれています。特に、超高齢化の日本では、団魂世代が65歳を向かえ年金支給者が急増し、今回の大震災で経済破綻に拍車がかかる可能性が危惧されます。 この意味からも、今後は、健全な医療経済を意識した臨床試験の展開が必要で、その解決策として付随研究が存在すると確信しています。


なお、当財団では、術後補助療法の分野を最近臨床腫瘍医が担当する施設が増加傾向にあることから、JFMC41-1001-C2では「JOIN Trial」との略称で、 腫瘍内科との共同研究、「JOINT」とも読める妙案を研究代表者から提案頂きました。 また、本年度から胃癌に対するHer-2遺伝子とTrastuzumabとの関連で新規臨床試験を計画しました。 今後とも、是非多くの施設、先生方に付随研究を含めた当財団の臨床試験に参画頂き、症例登録にご協力賜ることで、 がん患者さんの福音に繋がる成果が得られますよう粉骨努力する所存ですので、益々のご支援の程を宜しくお願い申し上げます。

平成23年4月吉日