利用者からの声

平成18年度から厚生労働省の指示で、下記事業を行っており平成24年度までに(1)外国人研究者招へい事業は46名を招へいし、(2)外国への日本人研究者派遣事業については23名を派遣し、(3)若手研究者(リサーチ・レジデント)育成活用事業は32名を派遣し、(4)研究支援者活用事業は102名を支援した。各事業の利用者からの声を財団ニューズVol.39より引用し掲載致します。

外国人研究者招へい事業

九州大学大学院 消化器・総合外科(第二外科)教授 前原 喜彦

1-1本年2月19日から25日の7日間,がん集学的治療研究財団の援助をいただき,米国より Mar-celo Facciuto 先生をお招きいたしました。Facciuto 先生はマウントサイナイ医科大学の准教授として,肝移植の最先端でご活躍されています。肝移植は癌の発生母地である硬変肝そのものを入 れ替える治療であり,欧米を中心に,肝癌の根治療法として施行されています。2月20日に米国における肝移植の現状について,22日には肝癌及び胆管癌に対する肝移植に ついて講演会を行なっていただきました。肝移植待機リストの順位は,総ビリルビン値,クレアチ 二ン値,PT-INR から得られる MELD スコアによって決定されます。肝癌は T2 腫虜(単発で径 2-5cm あるいは2-3個で径3cm 未満)であれば,MELD スコアに追加点数がもらえる仕組みとなっているため,待機中に肝癌が進行し,T2 を超えた場合,ラジオ波,経動脈的塞栓療法,肝 機能が許容すれば肝切除などの局所治療が積極的に行われています。一方,肝内胆管癌は外科手術を施行しても予後不良な疾患の一つです。Facciuto 先生の自験例から移植後5年生存率はミラノ基準内で71o,基準外で42oと,基準内であれば胆管細胞癌でも良好な成績を示されました。

滞在期間中には2例の生体肝移植手術を見学していただき,手技-血行再建に対する考えなどについて意見を交換しました。我が国の生体肝移植ドナーの手術手技に関しては,大変感銘を受けられたとお聞きしました。また,脳死下臓器提供が増加しない我が国の現状についての 意見交換を行ないました。現在,人口あたりの脳死下臓器提供数が世界ーであるスペインでは,脳死下臓器提供可能施設の数が多く,さらに施設それぞれに医師を含む院内コーディネーターチームが常在しています。このチームが家族に対して臓器提供を呼びかけ,臓器摘出の際には,チームの医師が臓器摘出を施行することで,時間と人の動きが円滑に動くようにシステムが構築されているそうです。家族の死生観,医療関係者の教育,医師の手術手技のトレー二ングなど克服すべき課題は多いですが,スペインのシステムを模範とした,我が国の現状に見合ったシステムの構築が必要と考えられました。

我が国での肝癌に対する治療法としてのラジオ波,肝動注化学療法,肝切除に関する意見交換を行うことで,肝癌の根治療法である肝移植までの橋渡しとしての,我が国の優れた局所療法の症例の選択-方法-成績を世界に発信することが重要と考えられました。このような機会を与えていただきましたがん集学的治療研究財団に深く感謝いたします。

外国への日本人研究者派遣事業

九州大学大学院 消化器・総合外科 萱島 寛人

2-1平成24年1月より3ヶ月間,「外国への日本人研究者派遣事業jの一環として,アメリ力合衆国オハイオ州にある Cleveland Clinic,Digestive Disease Institute,Department of Hepato-pancreato-biliary & Transplantat Surgery に派遣させて頂きましたので,御報告致します。 Cleveland Clinic は1921年に協力,思いやり,革新を軸則として4名の医師によって創設されました。はじめは小さなクリニックでしたが,いまや市の経済を支える一大医療センターです。 U.S. News & World Report によるランキングでは,病院全体としても毎年ベスト4以上になっています。病床数は1,300床以上,総医師数(研究者含む)は2,000人超,年間総手術症例数は約80,000件と非常に大きな病院です。

今回の派遣の目的は,肝細胞癌を中心とした消化器癌に対する集学的治療を視察することでしたが,その中でも,肝細胞癌に対する肝移植を中心とした集学的治療について報告致します。Cleve- land Clinic では,Multidisciplinary approach(多科目連携治療アプローチ)を合言葉に集学的治療が進められています。1人の患者に対して消化器内科医,肝臓内科医,外科医,放射線科医, 腫虜内科医が密に連携し治療方針を議論し,その病状に応じた手術,化学療法,放射線治療等が選択されています。肝細胞癌の治療に際しては,Liver Tumor Clinic というチームを結成し,力ンファレンスにて検討したうえで,各症例に対する治療方針を決定しています。肝細胞癌に対する治療方針としては,肝機能良好で切除可能であれば切除を基本とし,より侵襲が少ない腹腔鏡を用いた手術も積極的に導入されています。腫虜径が小さく,肝機能不良等の因子により切除が困難であればラジオ波焼灼術(RFA)を選択します。RFA については,経皮的施行が容易であれば選択するが,主に腹腔鏡下に施行していました。腫虜個数が多数で肝機能不良である症例に対しては経肝動脈的化学塞栓療法(TACE)を選択するとのことでしたが,背景に肝硬変が存在して肝機能不良であることが多いことから,切除以外の RFA,TACE 等の治療は,肝移植に至るまで肝細胞癌を制御するための方法との考え方が強い傾向にありました。アメリ力では脳死ドナーを用いた脳死移植が普及していることから,治療の基本は肝移植を中心とする傾向が強い様です。肝移植については,Cleveland Clinic では1984年から行われ,2010年までに1564例が施行されています。ドナー不足を解消するために,移植後合併症のリスクが高いといわれる心停止ドナーにも積極的に取り組んでいますし,今年からは積極的に生体肝移植にも取り組み始めています。

今回,脳死肝移植約20例,生体肝移植2例,肝切除約10例の手術を見学させて頂きました。さらに,脳死ドナー13例,心停止ドナー4例の臓器摘出に同行させて頂きました。本邦における脳死移植は徐々にではあるが症例数の増加を認めており,今回の派遣における脳死ドナー,心停止ドナーの臓器摘出を直接経験できたことは,今後の本邦における移植医療に携わる際に非常に有用な経験であったと思われます。

最後になりましたが,この様な大変貴重な機会を与えて下さいました,財団理事長佐治重豊先生,財団の皆様,東京大学医学部附属病院園土典宏先生,九州大学大学院消化器-総合外科前原喜彦先生,諸先輩方にこの場を借りて心より御礼申し上げます。


静岡県立静岡がんセンター 内視鏡科 滝沢 耕平

2-2メイヨークリニック Christopher J. Gostout 氏とこの度[外国への日本人研究者派遣事業Jにて平成23年6月より1ヶ月間,アメリ力合衆国において消化器内視 鏡の研修させていただきました。前半の2週間は,イリノイ州シ力ゴ市にあるノースウ工スタン記念病院で研修しました。ノースウ工スタン大学の附属病院で,全米でも有数の規模を誇り,大都市シ力ゴの中心地に位置しています。後半の2週間はミネソタ州口チ工スター市にあるメイヨークリ二ックで研修を行いました。シ力ゴとは対照的に口チ工スターは人口10万人規模の小さな田舎町ですが,人口の約3分の1はメイヨーの職買で,街の中心部は病院関連のビルで占められており,ミネソタの厳しい冬に対応するためそれらは患者用のホテルも含め,すべてアリの巣のように地下もしくは2階の連絡通路でつながっており,街全体が巨大な病院を形成しているという印象を受けました。アメリ力全土から患者が集まり,病床数は約2,000床,年間の外来患者数は100万人超の大規模な病院で,アメリ力病院ランキングでも毎年3位以内,消化器部門は10年以上連続1位を続けており,内視鏡室は約50室,スタッフ80名,フ工口ー20名で年間40,000件を越える検査を行っています。

この2施設において様々な内視鏡検査や処置を見学し,さらに指導医やフ工口ーと日米での内視鏡診療の相違についてディス力ッションを行いました。特に注目していた点は,日本ではすでに標準治療となっている早期の消化管がんに対する内視鏡切除(内視鏡的粘膜下層切除術(ESD))が欧米とくに米国においてはほとんど普及していない点についてでした。その要因として ESD の技術的八ードルの高さがあげられていますが,ESD 以外の難易度が高い内視鏡手技に関しては非常に巧みに施行されており,器用さではなくトレー二ングの機会が課題と考えられました。日本では ESD の難易度が低い胃癌の発生頻度が高いため十分なトレー二ングの機会がありますが,アメリ力では胃癌の頻度が低く,頻度が高い大腸癌は,ESD の難易度が高いためトレー二ングには不向きとされています。また指導者の不足も一因と考えられます。さらに重要な問題として,保険診療点数が認められていないこと,内視鏡切除した検体を詳細に評価する病理医が不足していることもあげられました。しかし今回ディス力ッションを行った医師の多くが,ESD の必要性は十分に理解しており,可能であれば施行した方がよいと考えていました。メイヨークリ二ックでは,日本からエキスパートを講演に招轄したり,スタッフを日本へ研修に派遣するなどし,少数例ではあるもののすでに ESD を始めていました。いろいろ課題は多いものの,今後このような施設がアメリ力圏内にも増えることにより,ESD がアメリ力でも普及する日はそれほど遠くはないのではないかと感じました。

1ヶ月間という短い期間でしたが非常に中身の濃い有意義な研修を行うことができました。最後になりましたが,このような貴重な経験を与えてくださいました,財団理事長佐治重豊先生,財団の皆様,静岡がんセンター内視鏡科部長小野裕之先生,諸先生方にこの場を借りて心より御礼申し上げます。

若手研究者(リサーチ・レジデント)育成活用事業

東京医科歯科大学 医歯学総合研究科 高森 絢子

3-1私は2011年10月から九州がんセンター鵜池直邦先生の率いるがん臨床研究班の班員である神奈木真理教授(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科免疫治療学分野)の下,「成人T細胞白血病(ATL)の根治を目指した細胞療法の確立および HTLV-1 抑制メカニズムの解明に関する研究に携わっています。

ヒ卜T細胞白血病ウイル1型(HTLV-1)に感染すると約5%の人が ATL 発症します。ATL は化学療法抵抗性で,予後が大変悪い疾患です。しかし近年 ATL 患者様に対して同種造血幹細胞移植がなされ,治療成績も向上してきています。私がお世話になっている免疫治療学研究室では以前移植後寛解に至った方から HTLV-1 Tax 特異的細胞傷害性T細胞(CTL)の工ピ卜ープを同定しています。現在私は,研究班で行われている免疫の賦活化を狙ったペプチドパレス樹状細胞療法の臨床治験に携わっています。これは生体外で誘導した樹状 細胞に同定した CTL の工ピ卜ープペプチドを添加し,それをまた患者様の体内に戻す療法です。

そのため実際に細胞調製室に入り樹状細胞を誘導し,ペプチドを添加するための作業訓練を受けました。この治療法は現時点ではまだ第I相試験の段階ですが,臨床治験が進み ATL 患者様の治療方法の一つになることを願っています。またこの他に,ATL をまだ発症していない HTLV-1 感染者の方にも HTLV-1 特異的な免疫応答が選択的に低下している方がいることを見つけました。機能低下に関与する因子は現在探索中ですが,ATL 発症前からある HTLV-1 特異的な免疫応答の低下は ATL 発症リスクの指標の一つになりうるのではないかと考えられます。今後 ATL 発症のリスクグループを絞り込む事ができれば,現在進行中の樹状細胞ペプチドワクチン療法が治療ワクチンだけでなく,ゆくゆくは ATL 発症予防ワクチンとして使用することも可能だと考えています。今年で2年目を迎えますが ATL の治療ならびに ATL 発症メカニズムに関する研究に携わることができることを感謝しつつ,これからも日々精進して研究に励みたいと思います。

最後になりましたが研究を行うにあたりご尽力賜りました先生方や免疫治療学教室の皆様,そして研究する機会を与えてくださいましたがん集学的治療研究財団の皆様に心から感謝申し上げます。

研究支援者活用事業

東北大学大学院医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護学分野 清水 恵

4-1私は,厚生労働科学研究費補助金がん臨床研究事業「がん対策に資するがん患者の療養生活の質の評価方法の確立に関する研究」(主任研究者:宮下光令)において,研究支援を行っている。現在は,「受療行動調査を利用したがん患者の療養生活の質の評価の妥当性の検討」が主な役割である。

受療行動調査は,3年に1回実施される政府統計で,全国の医療施設を利用する患者へのアンケー卜調査である。この調査と同時に実施される医療施設対象の調査とのデータリンケージにより,受療行動調査のデータについてがん患者の同定が可能である。このデータを利用することで経時的かつ全国的にがん患者の療養生活の質を評価することができると考えられる。そこで,受療行動調査の調査項目のうち,がん患者の療養生活と関連があると考えられる項目(心身に関する5項目,自覚的健康度1項目,受けている医療に対する満足度9項目,医師からの説明に対する理 解度1項目)が,真にがん患者の療養生活の質を評価するうえで妥当性,信頼性のある項目であるかを,国立がん研究センター東病院での患者調査により検討を行うこととした。昨年度は外来患者 調査を実施した。国立がん研究センター東病院精神腫虜開発部の協力のもと,外来患者に直接調査票記入の依頼を行い,本調査324人,再調査192人の有効回答を得た。本年度は,看護部の協力のもとで入院調査を実施し,解析を行う予定である。また,受療行動調査の調査結果の解釈可能性を明らかにするために,インターネッ卜によるモニター調査を実施した。今後は,これらの調査を踏まえて,受療行動調査の結果をどのように社会に提示していくかの検討を行う必要がある。

研究支援者として本研究班における重要な役割を担当させていただいていることに加え,他の研究班の班会議に参加し勉強をする機会を与えられ,非常に貴重な経験をすることができている。

主任研究者である宮下教授をはじめ,多くの先生方,臨床の方々にご指導,ご助力をいただいて いることに深く感謝を申し上げたい。また,調査に協力いただいている患者の皆様の思いに少しでも報いられるよう,この調査結果を社会に役立てられる形で発信していかなければと強く感じている。


北海道大学病院 病理部 鈴木 雄太

4-2私は昨年8月初日より8ヶ月間,北海道大学病院病理部にて,バーチャルスライド(VS)システムを用いたがんの病理診断支援の在り方に関する研究の支援業務を務めさせていただきました。主な業務内容として,上記の研究課題に関し,特に画像解析の分野に関する研究支援を主軸とし,同大学病院にて得うれた乳癌組織検体を対象に,細胞増殖マー力ーとして普及している Kii- 67の免疫染色を施した染色標本を VS 化後,画像解析システム(Difiniens Tissue Studio)を用いて,Kii-67 labeling index(LI)の計測を行い,その解析精度について検討を行いました。

LI とは,腫虜細胞のうち,Kii-67の免疫染色が陽性となった細胞の割合を指し,腫虜増殖の尺度として普及しており,このLIに応じて,乳癌患者への化学療法の要不要の診断が行われます。しかし,多くの施設で,LI は顕微鏡での目視による細胞のカウン卜により計測されており,病理医の負担となっているのが現状です。こうした負担を軽減するため,画像解析システムの導入が期侍されています。

支援業務を行っていく中で,ます,一部の症例について,顕微鏡での目視による Ki-67 labeling index の測定結果と,画像解析システムによる測定結果に大きな差があることが確認されました。この原因は,画像解析システムが,乳癌細胞のみならす正常の細胞を多く認識して解析を行っているためと考えられました。次に,同じ組織標本であっても施設聞で Ki-67の免疫染色プ口卜コールに遣いがあるため,同一の解析アルゴリズムで画像解析を実施すると,一部において,Ki-67 la- beling index の測定値に大きな差が発生することが明らかになりました。

こうした課題を解決するため我々は検討を行い,前者に対しては認識させるべき乳癌細胞,および除外すべき正常細胞を解析システムに学習させることにより,大幅な解析精度の改善を得ることができ,画像解析システムを用いて,目視とほぼ同等の解析結果を得ることが可能となりました。後者においては,施設に応じた解析アルゴリズムの変更により,Ki-67 labeling index の計測値の施設聞差は狭められたものの,一方で施設毎の染色プ口卜コ-ルの標準化が今後必要になっていくであろうことが示唆される結果となりました。

個別化医療に伴う病理診断の高度化により,分子診断の定量化が求められている近年において,従来の目視判定では診断業務の対応が質的にも量的にも困難となってきています。こうした背景か ら,VS および画像解析システムは今後ますます発展-普及していくであろう技術であり,その臨床導入にあたって実施された今回の研究は,非常に意義のあるものであると思っております。こうした研究の支援業務に携わり,微力ながらも貢献できたことを,非常に嬉しく思っております。